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イタリアのアルベロベッロは、非常にかわいい歴史的な住宅の残る地区。 この住居は、15世紀ころから建てられ始めたらしいが、村の戸数分の税金を課すという 徴税制度への対策から、役人が来た時にはすぐに壊すことが出来るように建てられた。

トルコから入ってきたと思われる建築様式は、メルヘンチックな風貌で、観光客に人気なのも頷ける。 家のてっぺんには様々な意味のあるシンボル(右下参照)が付き、屋根の平らな部分には下のような マークが描いてある。これは、魔よけなどの宗教的な意味を持っているという。 雌雄のマーク、太陽のマーク、キリストのマーク、などなど、今ではあまり意味は重要視されていないらしいが、家の屋根にこういった意味のある模様を描くというのは非常に興味深い。

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世界にはいくらでもあるが、日本にはあまりない石造りの家々。
私は昔から興味と憧れを持っていた。素朴で可愛く、なんとも自由な雰囲気があるからだ。 例えば、全体が不規則な柔らかい形であったり、こんなところに?というような場所に壁を掘って棚を作ってしまったり。 適当な中に秩序があり、意味がある。形の整えられた箱ではなく、なんというか、自然の中にいるかのような気楽さを感じてしまうのだ。

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アルベロベッロは、とにかく屋根の連なりの奇観に目を見張らされた。 また、そうなった理由を知ってみると、なかなか合理的に造られた 町並みなのだということに驚かされる。 この辺りの地層は、キャンカレッレという石灰石の岩盤で、 叩くと平らに割れるという性質を持っている。 掘り出したキャンカレッレを使って壁を築き、屋根まで葺く。 掘り出し時に空いた穴は、地下の雨水貯水に使用するというから どこまでも合理的。そして極めつけは屋根。 徴税の為に役人が来た時すぐ壊せるように、屋根の決められた ある場所の石を抜くと、簡単に壊せる仕組みになっているのだそう。

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しかし、どんな理由でも、自分の家を壊すというのは非常に辛かった のではないかと思わずにはいられない。 しかし、生きていく為の手段なのだから仕方がない、と言われてしまうと 何も言えない。必然的に出来上がった形がアルベロベッロなのである。

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ここはイタリア南部に位置するマテーラ。 洞窟住居地区として世界遺産となっている。

クラヴィーナ渓谷からそびえたつ岩山が自然に侵食し洞窟ができ、 そこに人が住み着いたのは新石器時代。 洞窟を横穴に堀り地中に住空間を拡張していき、 外の岩に階段を作り上下に連続性を持たせていった。

更に洞窟の外に切り石を積み、さらなる家の拡張を行った。 その結果、現在のような街並みが出来上がったのだ。 そういったマテーラの洞窟住居のことを単数形でサッソ、 複数形でサッシと呼ぶ。 現在はサッシの半分が廃墟となっている。

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マテーラの町が見えた瞬間、なにこれ!?と思わず叫んでしまうほどの衝撃を受けた。 夜に着いたせいで、使われていないサッシが暗く沈み、住人のあるサッシだけが浮かび 上がっているという不気味な雰囲気が町を包み込んでいた。 洞窟住居は世界中にある。しかし、半分もの家が廃墟のまま残っているという場所を訪れ たのは初めてで、今まで味わったことのない興奮を覚えた。 廃墟の中には、置き去られた家具などが散乱しており、不気味さをより一層のものに 演出しているのだった。


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町中にある建物の壁に施されていたマテーラのレリーフ。

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昔、この町は衛生面などの問題でかなり酷い生活を強いられていた。 そして、住民はこの町の外に作られた新市街に移り、マテーラは完全な無人街となってしまった。 しかし、洞窟住居というものの歴史的価値に気が付いた国は、この町に人々を呼び戻し始めた。 現在では、衛生面は改善され、快適とまでは言い切れないが、人の住む場所としての環境は整えられている。 現地に住む人々の家をのぞいてみると、洒落た家具が揃えてあったり、車を持つ人もいた。 また、子供達は使っていないサッシを改造して自分達の隠れ家的スペースを造って楽しんでいたりして、 なんだかここの人々は今の生活を楽しんでいるように感じた。

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壁が厚いため、とても深い窓のある家がある。 そこに巣を作り卵を温めている鳥がいた。 巣は廃墟から拾ってきたと思われるバネや針金で出来ていた。 その土地にあるもので自分の家をつくる。ここの人々も同じだった。 元はどこの国でもそうしてきた。これが自然なことなんだと感じた。 今の世の中は複雑すぎる。もっとシンプルにできたらいいのに。

人は、より良く暮らすために新しいモノをどんどん産み出す。大量に、 そして、それに満足することなく、更に楽に暮らせるようになる為 のモノを産む。そうしないと経済は活性化していかない世の中だから 仕方がないのかもしれない。しかし、モノが溢れるこの世界に 疑問を感じずにはいられなかった。

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遠くから見ると無秩序なように見えるが、近くから見ると秩序をもって町が
成っている。 マテーラは、見る角度や距離によって全く異なった印象を与えて
くれる。

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「青の洞窟」は本当に青かった。暗い洞窟の中に信じられない程鮮やかな深い青が、 波打つごとにゆらゆらと光を反射させる。 私は、船頭のイタリア人おじさんの歌う「帰れソレントへ」を聞きながら青の波とともに揺れていた。

青の洞窟があるのは、イタリアのカプリ島。カプリには、ナポリからフェリーで40分程度だ。 カプリはものすごく美しい海に囲まれている。 目の覚めるような蛍光の青の海に、白いフェリーや小舟が浮いている。 その上の空も同じように真っ青だった。

洞窟に行くには、フェリーで行くか、バスまたはタクシーで行くしかない。 私は、以前2度ここに訪れたが天候が悪かったりで今回3回目なんだという人と一緒だったため、 バスで目的地までスムーズに着くことが出来た。 バスで来る人は殆どいなかった。大体の人はツアーで来るようで、 ツアーではフェリーを使うことが多いらしい。それを証明するかのように、 洞窟の入り口前には入場を待っている人々を乗せたフェリーが何隻も浮かんでいた。

大きなものだと30人くらいを乗せていて、ざっと見渡しただけでも100人以上はいるだろうと思われた。 これは時間がかかりそうだと思い、気が遠くなった。 なぜならこの洞窟は、波が大きくなったり、水位が上がると入れなくなってしまうからだ。 大体、朝の早い時間は大丈夫だと聞いて来たのにこんなに人が待っているのでは、今日は無理かもしれないと思った。

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しかし、そんな心配も余所に、私たちの順番はすぐにやって来た。 陸地で待っている人が少なかった為なのだろうか、そんなことを 考えながら船頭さんに手を引かれ、1隻につき4、5人しか乗れない 小舟に乗り込んだ。

船を少し移動させて料金所となる船まで行く。船同士を密着させ、 お金を払いチケットをもらう。そして少しの間船に乗ったまま待ち、 私たちの番がやってきた。船に寝そべった状態で、波が洞窟内に 引き込まれていく揺れと一緒にグイっと入り口をくぐる。 その瞬間、一番後ろにいた私にだけざっぱりと水がかかり、 私は水浸しになった。「ビショビショ!」と船頭さんに言われながら ようやく中に入ることが出来た。

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洞窟の中は意外と隠やかで、 何隻かいる他の船の船頭さんの歌が間こえてくる感じが心地良い。 私の船の船頭さんは、 船をゆっくりと澄ぎながら、ここの素晴らしさを見せてくれた。 中にいられる時間は10分程度。その短い時間でなんとかこの青さや雰囲気を目に焼きつけようと、 私は一生懸命に五感をフル活動させた。 入り口からのみの採光で光の反射や屈折によって青く輝くのだという。 しかし、それにしても青い。絵の具でも混ぜたのではないかと疑いたくなる青さだ。 この青を表現するのに一番適した言葉というのは、私には思いつかない。 しかし、私の今まで見てきた中で最高に美しい青だったのは間違いない。 こんな色があるのかという衝撃と感動があった。

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そうして洞窟内を1周し、名残惜しくこの洞窟を出た。 外ではまだフェリーに乗ったまま大勢の人々が待っていた。 かなりの時間船で待っているのに違いない。気分の悪そうな人も 何人か見受けられた。 殆ど待たずに入れた私達は、少し後ろめたい気持ちで船頭さんにチップを渡し岸に上がった。 そして振り返って船頭さんにさようならを伝えようとした時、待機していた船が1隻、また1隻とナポリの方角へと帰って行くのが見えた。 波が強くなったのだ。 小さな洞窟だけに、少し波が荒くなったたけで入れなくなってしまう。 私たちは本当に幸運だった。もう少し遅ければ入れなかったのだ。 後ろめたい気持ちは大きくなったが、同じくらいの充足感というのも感じていた。

カプリ島を堪能し、フェリーでナポリへと帰っていると、あることに気付いた。 ナポリに近付くに連れ、海にゴミが浮いているのが目立つようになってきたのだ。 ナポリは街自体もごちゃごちゃしていて、綺麗とは言い難い。それが海にまで広がっている。 カプリ島の周辺には全くなかったのに。更に、 海の色自体も違うということにも気がついた。

美しいものを見た後でこういった現状を目にするのは、ひどく残念なことであり、 またいろいろ考えさせられることであった。

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ご愛読ありがとうございます。

これで「イタリア編」はおしまいです。

次のエピソードは「スロヴェニア編」です。

引き続きお楽しみください!

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